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紹介者 大島寿美子先生
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書名 保健医療福祉くせものキーワード事典
著者名 保健医療福祉キーワード研究会
分野 社会福祉
書評 (再掲載:2008年9月掲載) 
 「寝たきり老人」「インフォームドコンセント」「認知症」「カンファレンス」「主治医」「ターミナルケア」「ADL」「生活習慣病」…。本書では、医療や介護などの専門職にとってお馴染みの用語ばかり28の言葉を取り上げている。その大半は、医療や介護の専門用語というよりも、生活の中で医療や福祉について語るときに多くの人が使っている言葉でもある。
 そのような簡単な日常語が「キーワード」となるのはなぜか?
 本書によれば、掲載された用語はいずれも、医療や介護において職種を超えてコミュニケーションするときに重要な役割を果たしているという。例えば、患者や利用者の状態を把握する、今後の治療や看護、援助や介護の方針を考える、患者や家族からの要望に応えるといった場合に、医師や看護師、理学・作業療法士、介護福祉士、ケアマネージャーなど異なる職種の人々による話し合いが必要になることがある。こうした場面で「判断」や「評価」をするときに「要」となるのが、本書で取り上げている28の言葉であり、「往診と訪問診療」「キーパーソン」「見守り、一部介助、全介助」といった、一見すると注意や警戒を必要としないような平凡な言葉なのだという。
 ではなぜこうした言葉が「くせもの」なのか?
 本書によれば、やっかいなことに、これらのキーワードは、職種によって定義や使われ方が微妙に異なっている。そのため、職種間の話し合いでこれらの言葉がコミュニケーションを促進して問題を解決するどころか、コミュニケーションを阻害することがあるという意味で「くせもの」なのだというのである。
 このような言葉の曖昧さから生じるコミュニケーションの問題を解決する方法としてこの「事典」は編纂された。ところが本書は、通常の辞書や事典が行うような定義の明確化や厳密化というアプローチをとらない。むしろ、執筆者が述べているように多義的な定義と使用法を尊重する。つまり、ひとつの言葉に対し、使用者が所属する現場や職域の文化による概念のずれを「認める」ことから出発するのが本書の特徴であるといえるだろう。いわば、異文化理解のために、互いの職域が価値観を尊重しようという手口である。
 そのため、一つの言葉の解説のために設けられた項目の構成もユニークである。まず、その言葉が登場する日常的な場面を事例としてあげ、由来や基本概念を説明する。次に、「ことばの風景」という小見出しで、その概念が登場する事例を物語として紹介する。その後、その言葉を巡る社会情勢が解説され、問題点が指摘される。さらに、職種間で言葉の意味や使い方が分かれると思われる点があれば、執筆者がそれぞれの職種の意見を引用という形で併記する。ときには、ある一専門職の一人語りという体裁で、その言葉を使う場面における疑問やとまどいが紹介されることもある。
 言葉が使われる文脈を通じてその言葉の概念をすくい取ろうとする野心的な試みであるが、一見すると事例の羅列とも取れる展開にとまどう読者もいるかもしれない。しかし、紹介された事例と執筆者の解説から立ち上ってくるのは、法律や行政による政策によっても解決の道筋が見えない医療や福祉の諸問題と、現場の混乱や戸惑いである。その意味で、本書は各用語を通じて医療や福祉の過去と現在を見渡す「事典」となっているといえるだろう。
 本書を読むことにより、執筆者たちの狙いどおり専門職種間のコミュニケーションがすぐに円滑に進むかどうかは未知数である。しかし、それぞれの専門家集団が、自分が使っている言葉に対する「正しさ」への素朴な信仰から離れて、他職種の理解へ踏み出すきっかけにはなるのではないか。異文化理解と同様、自分の「常識」を相対化し、互いの価値観を尊重するところからコミュニケーションの回路は開かれる。ややもすると、職種のヒエラルキーで序列化しやすい医療や福祉現場のコミュニケーションを架橋し、ケアの現場をさらに豊穣化していく試みとして、本書の提案に注目したい。



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