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紹介者 足立清人先生
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書名 (訳書)荒野へ / (原書) Into the world
著者名 ジョン・クラカワー
分野 英米文学
書評  1990年夏,クリストファー・マッカンドレスは,大学を優秀な成績で卒業した後,放浪の旅に出発した。マッカンドレスは,アレグザンダー・スーパートランプと名前を変え,家族との連絡を一切絶ち,当時あった貯金を全額,慈善団体に寄付し,お気に入りの車ダットサンや,持ち物のほとんどを放棄した。将来の成功の可能性もすべてなげうった。1992年8月,マッカンドレスは,アラスカ・マッキンレー山の北の荒野スタンピートトレイル(山道)にうち捨てられたオンボロバス(フェアバンクス142番バス)の車内で腐乱死体となって発見された。マッカンドレスは,餓死したのである。
 著者のジョン・クラカワーは,マッカンドレスの放浪の旅を,彼の日記,そして,旅の途上,彼と関わりをもった人びとの証言をもとに,跡付ける。マッカンドレスが,なぜ放浪の旅に出たのか,何を求めていたのか,なぜ人跡未踏の苛酷なアラスカの荒野に,十分な装備を備えないまま分け入って,悲劇的な結末を迎えたのかを解き明かそうとする。マッカンドレスは,傲慢なナルシスト,向こう見ずな愚かな者だったのか,高邁な理想をもった理想主義者だったのか…。クラカワーがマッカンドレスに興味を抱いたのは,クラカワー自身,マッカンドレスと似たところがあったからだ,という。実際,クラカワー自身,23歳のときに,アラスカのデヴィルズ・サム山への無謀な登頂を実行している(登頂の描写は迫真性を帯び秀逸である)。
 「旅」。それは,老若男女を惹き付けるものである。特に若者にとって,「旅」とは,未知なるものへの期待,ロマン,人生を根底から変えることになるかもしれないきっかけ,理想…を与えてくれる(与えてくれそうな)ものだ。ただし,それは,ときには「逃げ」にもつながる。確かにマッカンドレスもそうであったのかもしれない。クラカワーの調査によれば,マッカンドレスには,おそらくは家族の問題,特に父親との確執に端を発すると考えられる,現代社会のあり方に対しての疑念,それを受けての彼なりの理想があったように思われる。彼の旅は,逃げの側面はあったにせよ,それに尽きるものではない。
 本書を取り上げたのは,学生に旅を勧めるからではない(もちろん,旅を否定するものでもない)。評者にとって,「若さ」は憧憬の対象である。「若さ」にはイノセンスがあると考えるからである。学生には,刹那の楽しみを追い求めるのではなく,自分自身のこと,家族のこと,自分や家族を取り巻く社会のことを省察して欲しい(自分自身の内面への旅?)と考える。
 なお,マッカンドレスの悲劇的な顛末について,評者が唯一の救いと考えるのが,マッカンドレスが,アラスカの原野から「『最後で最大の冒険』に幕をおろし,そろそろ人間の世界にもどる」決断をして,それを実行しようとしたことである。この際,マッカンドレスは,トルストイ「家庭の幸福」のある箇所に印を付けている。しかし,この帰還の試みは,雪解け水で増水した川に阻まれた。
 本書は,監督ショーン・ペン,主演エミール・ハーシュによって映画化されている。映画は,マッカンドレスの旅の解釈の一つであるが,映画自体,秀逸な出来映えと思う(エディ・ベェダーによるサントラも聞き応えがある)。興味のある学生はご覧いただきたい。



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